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事例紹介

2025.08.29

愛媛

デジタルを活用して放射線科がつくる未来

放射線科医がいることの重要性
病気の診断や治療にCTやMRI、PET検査やレントゲンといった画像検査は不可欠である。日本国内には世界の約30%のCTがあるといわれており、検査も相当数行われている。
しかし、その読影の専門家である放射線科医の人口あたりの人数は、世界と比べると非常に少ない。画像検査のうち、放射線科医が読影を行っている件数は50%弱で、残りは内科や外科などの主治医が読影・診断しているといわれている。
画像診断を放射線科医に任せられない場合、主治医が検査の実施に消極的になることはままある。画像には当然自分の専門領域以外の部位も映り込むが、専門外の箇所に思いもかけない病気が潜んでいた場合、たとえわずかな可能性だとしても見落としのリスクを排除しきれないためだ。
その点、放射線科医は画像診断のエキスパートであり、専門的な読影を行って所見をつけて返してくれる。そのため、読影を放射線科医に任せられるとなれば、どの専門科の医師も安心して検査をオーダーできる。
さらに、日本は国土の形状が複雑で病院も各所に点在している。CTやMRIを設置しながら常勤の放射線科医がいない病院が多数あるのが現実だ。そのような現状を少しでも改善するべく、放射線科医がカバーできていないところを支援する目的で設立されたのが、愛媛大学放射線科が支援する「愛媛画像診断支援センター」だ。
デジタル技術を活用できる医療を
現在、愛媛大学大学院医学系研究科放射線医学講座の第4代教授を務める城戸輝仁氏。自身が愛媛大学医学部を卒業した当時は、世界がWindows95や続くWindows98の登場に沸きインターネットが普及し始めるなど、来たるデジタル化された未来に期待感が大きく膨らんでいた時代だった。
もちろん医療の現場にもデジタル化の波は押し寄せていた。医療が大きく変わっていく流れのなかで、城戸教授は「デジタル技術を活用していける医療を」と考え、放射線医学、なかでも「画像診断」の可能性に期待してこの道を選択した。
放射線医学に強い愛媛県
実は、愛媛県は放射線医学の先進県である。2022(令和4)年の厚生労働省による「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、愛媛県は人口あたりの放射線科医師の数が全国1位。全国トップクラスの放射線科医師の教育プログラムを要しているのだという。
そのような土壌において、城戸教授が前任の望月輝一名誉教授のもとで院生時代から携わってきた主要な研究が、心臓のイメージングだ。
心臓は絶えず動いている臓器であるため、従来のようなアナログのフィルムに焼き付けられる影は当然ブレて非常に見づらい。そこでデジタル技術を用いて心臓を動いている状態で連続撮影し、後から止まっている状態の画像を取り出してくる「心電図同期法」を、愛媛大学の放射線科が循環器内科とともに世界に先駆けて開発した。現在では、心電図同期を用いた心臓CTは世界のスタンダードとして、広く臨床現場で使われている。さらに城戸教授らは、心臓の筋肉に流れる血液量をCTで定量的に評価する新たな手法を開発し、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患の新たな診断技術の開発と社会実装も成し遂げた。まさにデジタル化の恩恵を受けて発展した医療技術といえる。
遠隔画像診断で地域医療の充実を
そして現在城戸教授が取り組んでいるのが、物理的な距離や時間による制約をデジタルで飛び越えていこうという「遠隔画像診断」だ。
遠隔画像診断自体は、東京などで比較的早い時期から取り組まれていた。城戸教授がハーバード大学に留学している際、同じように日本から留学してきていた東京大学や慶應義塾大学の医師が、東京で撮影した画像をパソコンで見ながら診断し、所見をつけて返送するという形で診療支援している姿を目の当たりにした。
こういう技術があれば、たとえば東予や南予の画像を松山で診断するなど、愛媛の放射線科が居ない地域でも医療の充実を図ることができるのではないか。希望を胸に帰国した城戸教授は、すぐさま動いた。「今、遠隔画像診断というものが十分運用できるようなシステムが登場している」と当時の医局長に相談を持ちかけ、先進的に取り組んでいる他県にも見学に行った。
そうして2013年、特定非営利団体活動(NPO)法人「愛媛画像診断支援センター」を立ち上げた。初代理事長は望月名誉教授が務め、2020年に城戸教授が、放射線医学講座の教授就任と同時に同センターの理事長も引き継いだ。
愛媛画像診断支援センターの取り組み
愛媛画像診断支援センターでは、現在主に愛媛県内の約15の医療機関と接続し、遠隔画像診断を活用した医療支援を行っている。
センターには愛媛大学放射線科より派遣された読影医が所属。センターではクラウドサービスを通じて依頼病院からの画像が閲覧できるようになっており、迅速な画像診断を行っている。
現時点で支援する医療施設が愛媛県内に集中しているのは、困った時には直接施設を訪れて、画像の撮影方法や所見内容についての相談などをできるような体制で支援を行いたいという考えからだ。センター立ち上げ当時にはまだZoomなどのオンラインでのコミュニケーションツールもそれほど普及しておらず、遠隔での支援のみではやはり不足があると考えた。直接顔を合わせてコミュニケーションをとり、気になったことをいつでも気軽に質問できるような信頼関係を構築しながら、丁寧に進めていくことを心がけたという。
導入した当初、やはり通信のみで画像診断を進めることに不安を感じる施設もあった。しかし、時に現場にまで来てくれて遠隔読影のサポートをしてくれるセンターの取り組みに、不安は払拭されていった。すでに県外や海外の遠隔画像診断サービスを利用していた施設もあったが、いざという時には直接相談できる同センターのサポートの形は非常にありがたいという実感の声も上がっているそうだ。
また、かつては医局員が数時間かけて現地まで赴き、現場で診療支援を行っていた。しかしこの体制では、毎日支援に行くことは難しい。支援の間隔が開くと、そのぶん病気の発見や治療開始が遅れてしまう。
それが遠隔でのサポートを行っている今では、すぐに、あるいは頻繁に赴くことが難しい遠隔地の病院においても、診療しているその日のうちに画像診断を提供できる。センターの取り組みは、迅速な治療開始ができるという点においても感謝された。
遠隔画像診断が地域医療に貢献する可能性
先述した通り、専門科の医師は自分の専門領域以外の病気の画像撮影や診断について、どうしても慎重になってしまう。救急で当直の医師が患者の主訴に対して専門外だった場合、その場でCTを撮影・診断するという判断をせず、病院の診療時間内の受診を促すケースもあるという。
しかし放射線科医による画像診断を行ってもらえる体制があれば、どのような患者でもひとまず受け入れてCTを撮影し、放射線科がレポートをつけてその病院で対応ができれば対応し、できなければより大きい病院へ搬送するという判断を下すことができるようになる。DXによる遠隔画像診断が浸透すれば、受け入れ病院や地域の放射線科の有無に関わらず、全域でより良い医療体制を敷くことができると考えられる。
実際に、自院の患者以外にもCTやMRIを持たない他院からの依頼を受けて検査を行い、センターの読影レポートをつけて主治医に返すといった形で愛媛画像診断支援センターを活用している病院もあるという。
そういった意味で、遠隔画像診断は地域医療に大きく寄与する可能性があるといえる。
デジタルを活用して放射線科がつくる未来
近年、都道府県における地域医療構想に基づいて全国さまざまな地域の病院再編が進んでいる。しかし、各病院や診療科の特色もそれぞれにあり、各々が地域で役割を持っているため、話が出てすぐに合併ができるかといえばやはり難しい。
しかし放射線科は、デジタルを活用すれば比較的容易に業務を統合できる。たとえば2つの病院の画像データを1つのデータベースに集約し、それぞれの病院の放射線科医が各自の病院にいながらそのデータベースにアクセスし、病院の区別なく分担・協力しながら画像診断を行う体制を作れば、放射線部門だけ他科に先駆けてバーチャルで病院合併を行えるのだ。
放射線科はその特徴として全診療科の医師と横のつながりがあるため、いきなりハード面全体での合併が難しくても、放射線科がまず先行してメリットや枠組みを示すことで合併を進めやすくなるのではないか。城戸教授は、地域の医療体制の再編は、放射線科が取り組むべき課題の1つだと感じているという。
また、放射線科は医師の働き方改革にも寄与する可能性がある。放射線科はDXを使った診療体制や分業体制の構築がしっかりできていて比較的働きやすい環境であると、女性をはじめとした若い医師たちに評価されているという。
実際、専用の読影端末を使用すれば自宅からの遠隔読影も可能であるため、小さい子供がいる女性医師や定年退職後にフリーになった医師でも、それぞれの生活スタイルに合わせた働き方ができるという。
他診療科も、オーダーした検査に放射線科医が想定される病名をつけたレポートを返してくれれば、自分で読影する時間やストレスが大幅に軽減される。それによって業務時間に余裕ができれば、より多くの患者を診察したり、病棟回診の時間をより多く確保できたりするかもしれない。
また、デジタルでつなげば患者も医師もわざわざ遠方の病院まで行く必要がなくなる。モニター上で患者と医師が対面し、現地で撮影した画像データや遠隔で診断された所見、電子カルテ端末を見ながらモニター越しに診察ができるようになれば、わざわざ何時間もかけて患者が都市部の大病院に通ったり、医師が地域の病院へ支援に行ったりしなくても良くなる可能性もある。
放射線科におけるDXの推進は、全診療科、全患者にとってのメリットとなり得るのだ。
遠隔読影は放射線科医常駐までのつなぎ
とはいえ、センターの目的は遠隔読影を軸にしていくことではないという。
本来は各病院に放射線科医が常駐し、その病院で撮影した画像をその場で即時読影していくという体制が理想的だと考えている。愛媛県は全国でもトップクラスの放射線科医数を誇るが、それでも放射線科医が常勤・非常勤ともに不在である病院は県内に数多くある。しかし、放射線科医の在不在は内科や外科などの専門科医のストレスや医療安全のレベルに関わってくるため、いずれ常勤医を派遣できるようになるまで、DXによる遠隔読影サポートを活用してもらいたいと考えている。
診療報酬制度上の制約
また、課題もまだまだある。放射線科医が画像診断をすると診療報酬において画像管理加算が取れるが、NPO法人である画像センターで読影をしてレポートのみを提供した場合、加算は認められないという。同じ放射線科医でも、頭部や腹部などそれぞれ得意分野があるため、より難しい症例に当たった場合は大学所属の医師が複数いるセンターに相談してもらうことでより全体にクオリティを上げられれば……とも考えたが、この制約により現状ではセンターの並行活用が難しくなっているという。
そこで次のステップとして、この画像診断支援センターの取り組みを病院側に組み込むことを考えている。一般の法人が画像診断を行うと加算は取れないが、同じことを医療法人同士が繋がって行った場合は加算が取れる。たとえば大学病院と地域の病院とで直接画像サーバーを繋ぎ、大学の医師が地域の病院の画像診断をつけることができれば、画像管理加算を維持できる。
現時点では、そうした場合の放射線科医の報酬体系など問題はあるが、将来的には愛媛県中の病院で撮影された画像データが全てネット上のクラウドサーバーに上げられ、それを愛媛県中の放射線科医が自分の病院から読影するような体制を構築できたら……と構想中だ。
愛媛県の画像ビッグデータを構築したい
クラウド化の利点は他にもある。県内全ての画像データが1つのサーバーに集約されると、1人の患者が今までに撮ってきた画像が、県内でありさえすれば病院の区別に左右されることなく時系列に沿って追跡できるのだ。
たとえばがんが発覚した患者の5年前の状態はどうだったのか、それに対してどのような診断が下されたのかというデータを分析していけば、どのような人が5年後にがんになる可能性が高いかという時間軸のデータを作ることができる。こういったデータを集約していくと、「こういう人は将来がんになる可能性が高いからしっかり検査を」とアドバイスするなど、予防医学に活用できるようなビッグデータを作れるかもしれない。
さらに、現在世界では画像からがんを指摘できるようなAIの開発が進んでいるが、このビッグデータをもとに、画像から将来のがんの可能性まで指摘してくれるAIを作れるかもしれない。次世代医療基盤法により、個人を特定できないように加工された医療データを収集できるようになったこともあり、愛媛県のデータをもとに画像のビッグデータを構築し、それを予想AIの開発に繋げたいと、城戸教授は大きな期待と希望を持って構想している。
ビッグデータを活用して医療の進化へ
また、外国のAIソフトウェアなどを日本に導入する場合、それが日本人にも適するかどうか検証するには治験を立ち上げたり、厚生労働省に薬事承認を受けたりといった手間と時間が非常にかかる。世界と比べて、日本の医療データベース、特に画像領域のデータベースの構築は非常に遅れているが、ここで愛媛県が全国に先駆けてビッグデータを構築すれば、最新の医療技術の開発や導入も加速度的に進められるのではないか。放射線科医が全国で一番多いというアドバンテージを持つ愛媛で構築したシステムやアルゴリズムを「愛媛モデル」として全国へ広げたり、海外へ輸出したりすれば、いろいろな領域の医療が進化するかもしれない。
さまざまな期待を膨らませながら、まずはじめの一歩としてセンターの取り組みを着実に進めている。

愛媛大学 医学部 放射線医学 教授
愛媛画像診断支援センター 代表
城戸 輝仁 様

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